日本最大の「枠外の人」、南方熊楠の「珍しい羞恥心」

西江 ああいう種類の学者(南方熊楠)というのは、日本のような国では本当に珍しい。
 田辺にひっこんでいたころはハダカの上にユカタみたいなもの一枚をひっかけただけで外を歩いていたとか。そして、その理由というのが、自分は恥ずかしがり屋で人に出会って正面からまともに顔を見られるのが恥ずかしい。だから、こうして歩いていて人に出会ったら、前方を開いてヘソ下をさらけ出せばみんなはそっちに気をとられて下の方ばかり見ている。そうすれば、顔を面と見られることもないから自分は恥ずかしくない、とか言って(笑)。でも、考えてみれば、ぼくの場合では、下の方もささやかな代物なので、見られるとかえって恥ずかしい。やはりまずいつくりでも、上の方を見られた方が良いかな(笑)。(157-158頁)

一九八一年七月・九月 / 駿河台 山の上ホテルでの対談です。西江雅之先生 四十四歳のときのご対談です。「枠外の人」であって「貴人」を自称するお二方の、「気品」に満ちた対談集です。

以下、

「貴人なるお二方 西江雅之先生と平野威馬雄氏が語る『南方熊楠という博覧強記の異人』 他一題」
です。